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M&Aのメリット・デメリットを売り手・買い手別に整理し、失敗しない判断基準まで解説

経営者の高齢化や後継者不在を背景に、M&Aを検討する企業が増えています。しかし、売り手と買い手では得られるメリットもリスクも大きく異なるため、立場ごとの違いを理解しないまま進めると、期待した成果を得られないケースがあります。

M&Aでは、売り手はキャピタルゲインの獲得や従業員の雇用維持、買い手は市場シェア拡大や新規事業への進出といった具体的なメリットを得られます。一方で、簿外債務の引き継ぎや統合作業の負担といったデメリットも存在します。本記事では、売り手・買い手それぞれのメリット・デメリットを整理したうえで、失敗しないための判断基準を解説します。

●目次

M&Aのメリットを売り手・買い手別に総覧

- 売り手が得る5つのメリット

売り手が得られるメリットは、大きく5つに分けられます。第一に「後継者問題の解決」、第二に「従業員の雇用確保・安定」、第三に「事業成長と経営基盤の強化」、第四に「創業者利益の獲得」、第五に「個人保証の解除」です(参照*1)(参照*2)。

後継者がいない中小企業にとって、M&Aは廃業を回避しながら事業を継続できる手段となります。さらに、オーナー経営者は株式を売却することでキャピタルゲインを得られるため、老後の資産形成にもつながります。

売り手は従業員の雇用を譲渡先に引き継げるほか、経営者が負っていた個人保証の解除を交渉できる点も重要です。M&Aは単なる会社売却ではなく、経営者・従業員・取引先の三者にとっての課題を同時に解消できる選択肢といえます(参照*2)。


- 買い手が得る4つのメリット

買い手にとってのM&Aのメリットは、主に4つです。「市場シェアの拡大」「新規事業への参入・多角化」「経営効率化」「技術力・生産力の向上」が代表的な利点として挙げられます(参照*1)。

自社で一からシェアを築くには多くの時間と投資が必要ですが、M&Aを活用すれば既存の顧客基盤や販路を短期間で獲得できます。新規事業への参入もスピーディに進められ、リスクを抑えながら事業拡大を図れる点がメリットです(参照*2)。

買い手はシナジーを見込みながら、買収対象企業の価値や買収金額を検討します(参照*3)。単に規模を拡大するだけでなく、自社にない技術や人材を取り込み、経営の効率を高められる点も大きな魅力です。

M&Aが求められる背景と市場動向

- 後継者不在と第三者承継の増加

中小企業の後継者不在は、M&Aが求められる大きな背景です。経済産業省の試算では、黒字廃業を放置した場合、2025年までの累計で約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われると見積もられています。中小企業経営者で最も多い年齢層は2015年時点で65歳~69歳であり、2025年時点で引退年齢を迎える経営者は約245万人、全中小企業の6割以上に達します。そのうち約半数にあたる127万人が後継者未定という状況です(参照*2)。

こうした状況を受けて、第三者承継の活用が広がっています。2024年度の第三者承継の相談件数は1万6,045件と全体の約7割を占め、成約件数も2,132件と過去最高を更新しました。成約した譲渡企業の68%が年商1億円以下であり、事業承継問題が小規模事業者にまで広く及んでいることがわかります。黒字であっても後継者不在を理由に廃業や第三者承継を検討する企業が過半を占める点は、地域経済や雇用維持の面でも見過ごせません(参照*4)。


- ROE経営と成長戦略としてのM&A

後継者問題に加えて、企業の成長戦略としてもM&Aの存在感は高まっています。2022年度には、事業承継・引継ぎ支援センターを通じたM&Aが1,681件、民間のM&A支援機関を利用した件数が4,036件に達し、いずれも過去最高を記録しました(参照*1)。

買い手企業にとって、M&Aは自力での事業開発よりも短期間で売上基盤や技術力を獲得し、資本効率を改善しやすい手段です。PwCの分析では、2025年に発表された世界の大型M&A取引上位100件のうち約3分の1がAIを戦略的な買収理由に挙げており、テクノロジー分野ではほぼすべての大型案件がAIに言及していました(参照*5)。成長領域への迅速な参入手段として、M&Aは経営戦略の中核に位置付けられるようになっています。

売り手のメリットを深掘り

- キャピタルゲインと税制優遇

売り手のオーナー経営者にとって、M&Aによる株式売却で得られるキャピタルゲインは大きなメリットです。株式譲渡所得には税制面での優遇があり、会社を解散して清算するよりも多くの現預金を手元に残せます(参照*2)。

中小企業の経営者は、退職金を十分に積み立てていないケースもあります。そのため、M&Aによる株式売却は老後の資産を確保する有効な手段となります。清算の場合は法人税や清算所得課税が発生し、最終的に株主が受け取れる金額が目減りしがちです。税制面でのメリットを正しく理解したうえで、売却方法を選ぶことが手取り額に直結します。


- 従業員の雇用維持と取引先の継続

M&Aには、従業員の雇用を守れるというメリットがあります。中堅・中小企業のM&Aでは、「従業員の雇用維持」が譲渡先への条件の一つに挙げられるケースが多く見られます(参照*1)。

廃業を選ぶと従業員は職を失い、長年の取引先も新たな調達先を探さなければなりません。M&Aであれば雇用契約や取引関係を引き継げるため、従業員の生活と地域の経済活動を同時に守りやすくなります。売り手経営者が「社員を路頭に迷わせたくない」という思いを実現できる点は、現場で特に重視されるメリットです。


- 個人保証の解除と経営負担の軽減

中小企業が金融機関から融資を受ける際には、経営者個人が会社の連帯保証人となる経営者保証が利用されることがあります。中小企業庁は、経営者保証には資金調達の円滑化に寄与する面がある一方で、思い切った事業展開や早期の事業再生、円滑な事業承継を妨げる要因になると指摘されています(参照*8)。

経営者保証に関するガイドラインは、全国銀行協会と日本商工会議所が策定し、2014年2月1日に適用が開始されました。ガイドラインは、一定の要件を満たす場合に経営者保証を求めないことや、既存の経営者保証を見直すことなどを示しています(参照*8)。

M&Aでは、譲渡側経営者に個人保証を残さないよう、保証の解除や譲受側への移行を交渉の中で進めることが重要です。個人保証が解除されれば、経営者は自宅や個人資産を担保に差し出しているリスクから解放されやすくなります。精神的な負担の軽減もあわせて考えると、M&Aは経営者個人の人生設計にまで影響を及ぼすメリットを持っています。

買い手のメリットを深掘り

- 市場シェア拡大と時間短縮

M&Aを通じて、買い手企業は迅速に市場シェアを拡大できます(参照*1)。自社単独で販路を開拓し、顧客基盤を築くには数年単位の時間と多額の投資が必要です。M&Aであれば、すでに稼働している事業をまるごと取得できるため、この時間を大幅に短縮できます。

たとえば同業他社を買収すれば、その企業の顧客リスト、流通網、ブランド認知を引き継げます。異なる地域で展開する企業を取得すれば、地理的な空白を一気に埋めることも可能です。時間を買うという発想がM&Aの特徴であり、競合に先んじて市場ポジションを確立するための有力な手段となります。


- 新規事業進出・多角化の加速

買い手にとって、M&Aは新規事業への参入と多角化を加速させる手段です。短期間で新規事業へ参入しやすくなるほか、事業の多角化もスピーディに進められるため、リスクを抑えながら事業拡大を図れる点がメリットとされています(参照*2)。

自社で新規事業をゼロから立ち上げる場合、市場調査、人材採用、設備投資、ノウハウの蓄積といった複数の工程を順番にこなす必要があります。M&Aであればこれらを一括して取得できるため、事業化までのリードタイムが短くなります。既存事業と新規事業を組み合わせることで収益の安定性が増し、特定の市場に依存するリスクを分散できる点も、買い手が多角化を目指す大きな動機です。


- 技術・人材の獲得と経営効率化

M&Aの目的の一つは、優秀な人材や技術の取り込みによる自社の事業強化です(参照*3)。自社で技術開発を行うには研究費と年月がかかりますが、すでに完成した技術を持つ企業を取得すれば、開発期間を省略して即座に活用できます。

人材面でも、採用市場が厳しい領域ではM&Aが有効に機能します。対象企業の熟練した技術者や専門知識を持つ社員をそのまま組織に迎え入れることで、人材育成にかかるコストと時間を削減できます。さらに、重複する管理部門や物流拠点を統合すれば、経営効率化によるコスト削減も実現できます。技術・人材・コストの3つの面で同時に改善を図れる点は、買い手にとって大きなメリットです。

M&Aのデメリットとリスク

- 売り手側の主なデメリット

売り手にとってのデメリットは、経営権を手放すことで意思決定の自由が失われる点にあります。M&Aが成立した後は、買い手の経営方針に沿って事業が運営されるため、売り手経営者がこれまで大切にしてきた企業文化や独自の商慣行が変わる可能性があります。

また、M&Aの交渉過程で自社の財務情報や顧客情報が相手先に開示されるため、万一交渉が破談した場合に情報漏洩のリスクが残ります。従業員への影響も見落とせません。統合作業は「経営面」「業務面」「意識面」と複数の領域に及ぶため、従業員が不安を感じて離職するケースが現場では起こり得ます(参照*2)。売り手はメリットだけに目を向けず、こうした負の側面を事前に把握しておくことが欠かせません。


- 買い手側の主なデメリット

買い手側で特に注意すべきデメリットは、簿外債務や偶発債務の引き継ぎです。買収成立後に「退職給付引当金」「未払いの給与」など、貸借対照表に載っていない簿外債務を引き継いでしまう恐れがあります。簿外債務だけでなく、「顧客とのトラブル」「環境汚染」といった将来的に不利益をもたらす偶発債務を承継してしまう可能性も考えられます(参照*3)。

また、統合後のシナジーが想定どおりに出ないリスクもデメリットです。統合後のシナジー効果が実感できるまでには時間がかかることが多く、初期投資やコストがかさむ場合もあります(参照*1)。想定していた相乗効果が出なければ、買収に投じた資金を回収できず、企業価値がかえって毀損するリスクもあります。買い手はメリットとデメリットの両面を精緻に分析したうえで、買収判断をしなければなりません。

スキーム別メリット・デメリット比較

- 株式譲渡と事業譲渡の違い

M&Aの手法としてよく用いられるのが株式譲渡です。株式譲渡は経営権のみを移転する手続きであり、取引先との契約や許認可、従業員の雇用関係に影響が出にくい点がメリットです。一方で、負債もそのまま引き継がれるため、未払い残業代や社会保険料などの簿外債務を承継するリスクがあります(参照*6)。

事業譲渡は、売り手企業の事業の一部またはすべてを買い手に譲り渡す手法です(参照*1)。買い手が必要な資産や契約だけを選んで取得できるため、不要な負債を切り離せるメリットがあります。ただし、個々の契約を再締結する手間や、許認可を新たに取得し直す必要が生じる場合もあるため、手続きの煩雑さがデメリットとなります。


- 合併・会社分割の活用場面

合併は、複数の法人を一つに統合する手法です。組織や管理部門を一本化することで経営効率の向上が見込めますが、統合作業は経営面から業務面、従業員の意識面まで広範囲に及ぶため、実務上の負荷が大きくなります(参照*2)。

会社分割は、特定の事業部門を切り出して別法人に移す手法であり、不採算部門の整理やグループ再編に適しています。合併や会社分割などのスキームを選択した場合、買収成立後に許認可の引き継ぎが認められないと、買い手が新規に許認可を取得し直さなければならないケースがあります(参照*3)。どのスキームを選ぶかは、事業内容・許認可の有無・税務上の影響を踏まえて総合的に判断する必要があります。

失敗しないM&Aの判断基準と注意点

- デューデリジェンスの徹底

M&Aで失敗しないために欠かせないのがデューデリジェンスです。デューデリジェンスとは、売り手企業の価値やリスクを事前に調査する手続きであり、公認会計士が財務デューデリジェンスを、税理士が税務デューデリジェンスを担当するのが一般的です(参照*7)。

財務・税務に加えて、法務や労務、環境面の調査も並行して実施することが実務では求められます。先述のとおり、簿外債務や偶発債務は貸借対照表だけでは把握できないため、帳簿外の情報をいかに洗い出せるかが成否を左右します。デューデリジェンスの精度が低いと、買収後に想定外の負債やトラブルが発覚し、メリットを上回る損失を被る恐れがあります。


- PMI計画と従業員コミュニケーション

買収が成立した後に取り組む経営統合作業をPMIと呼びます。PMIは「新経営体制の構築」「経営ビジョン実現のための計画策定」「ITシステム統合」などM&A後の一連の取り組みを指し、リスクの最小化と成果の最大化を目的としています(参照*1)。

現場で特に課題となりやすいのが従業員とのコミュニケーションです(参照*3)。M&Aの目的の一つは優秀な人材の取り込みによる事業強化であるため、買収成立後に売り手企業の人材が流出してしまっては大きな損失となります。新しい環境で働く従業員が不満を抱かないよう、密なヒアリングや対話を重ねることが求められます(参照*3)。PMIの計画は買収契約の締結前から策定を始め、統合初日から実行に移せる状態にしておくことが望ましいです。


- 支援機関・専門家の選び方

M&Aは法務・税務・財務が複雑に絡み合うため、専門家の支援が不可欠です。全国47都道府県に設置されている「事業承継・引継ぎ支援センター」への2024年度の相談件数は2万3,540件に達しており、2年連続で2万3,000件超の高水準を維持しています(参照*4)。

公的な支援機関は相談無料の場合が多く、初めてM&Aを検討する経営者にとって敷居が低い窓口となります。一方、民間のM&A仲介会社やアドバイザリーファームは、案件の規模や業種ごとの専門性に強みを持つことがあります。選ぶ際には、手数料体系が明確か、過去の成約実績があるか、利益相反の管理体制が整っているかを確認してください。公的機関と民間専門家の双方を比較し、自社の規模や目的に合った支援先を選ぶことが、M&Aのメリットを最大化するうえで欠かせない判断基準となります。

おわりに

M&Aのメリットは、売り手にとってはキャピタルゲインの獲得、雇用の維持、個人保証の解除などがあり、買い手にとっては市場シェア拡大や新規事業への迅速な参入が挙げられます。一方で、簿外債務の引き継ぎや統合作業の負担といったデメリットも確実に存在します。

メリットを最大化しデメリットを最小化するためには、デューデリジェンスの徹底、PMI計画の早期策定、そして信頼できる専門家の選定が欠かせません。売り手・買い手それぞれの立場で得られる利点とリスクを正確に把握し、納得のいくM&Aの判断につなげてください。

参照

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