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新規事業の立ち上げは人材で決まる:適した人材要件と確保・育成の進め方

新規事業の成否を左右する要因は多岐にわたりますが、なかでも人材の確保と育成は避けて通れない課題です。適切な人材が揃わなければ、有望な事業アイデアがあっても計画の延期や断念に追い込まれるケースが少なくありません。

この記事では、調査データや実務事例をもとに、求められる人材の要件からチーム編成、採用手法、組織づくりまでを順を追って解説します。

●目次

新規事業で人材が最重要課題となる背景

- 人材不足が成功を阻む調査データ

新規事業の展開を阻む壁として「人材の不足」が挙げられています。中小企業庁の調査では、新規事業展開に成功していない企業が挙げた理由のトップが「人材が不足している」であり、コスト負担や競合との差別化、ブランド戦略を大きく引き離して最上位に位置しています(参照*1)。

300名以上の企業を対象にした調査によると、新規事業開発に取り組む企業は全体の51.3%と半数を超えました。しかし、新規事業開発の組織マネジメントにおける課題として最も多く挙げられたのは「新規事業開発を担う人材の確保が困難」という点で、その回答率は38.9%に達しています(参照*2)。

つまり、半数以上の企業が新規事業に取り組んでいるにもかかわらず、約4割が人材面の壁にぶつかっている状態です。事業の構想段階では見落としがちですが、人材の確保こそが新規事業の成功を左右する前提条件といえます。


- 専門人材の確保スピードと経営への影響

人材の不足は、プロジェクトの進行に加え、事業機会の損失にもつながります。過去1年間に専門人材の不足が原因で施策やプロジェクトを断念・延期した経験があるかを企業に尋ねたところ、6割以上が「ある」と回答しました。そのうち、断念・延期した領域として「新規事業開発」が52.4%で最多です(参照*3)。

さらに、人手不足が深刻な企業では「受注拡大・案件の受け入れを見送った」が38.0%、「新規事業の立ち上げを見送った」が33.8%、「取引先拡大を控えた」が31.0%にのぼり、成長機会の損失が顕在化しています(参照*4)。

専門人材を必要なタイミングで確保できなければ、事業計画は後ろ倒しになり、競合に先を越されるリスクも高まります。人材確保のスピードは経営判断そのものに影響を及ぼすため、早い段階から手を打つことが欠かせません。

新規事業に適した人材の要件とスキル

- 求められる7つのスキル・資質

新規事業の人材には、不確実性の高い環境で事業を創出・推進するための多面的なスキルと資質が求められます。具体的には次の7つが挙げられています(参照*2)。

  • 発想力と課題発見力:まだ顕在化していない市場ニーズや社会課題を見つけ出す力
  • ビジネス感覚・事業設計力:アイデアを収益構造に落とし込み、事業として成り立たせる力
  • スピード感のある実行力:仮説を素早く検証し、結果に基づいて方向を修正する力
  • 巻き込み力とコミュニケーション力:社内外の関係者を味方につけ、協力体制を築く力
  • 変化への適応力・柔軟性:前提が覆っても動揺せず、次の手を打てる力
  • 学習能力と情報収集力:未知の領域でも短期間でキャッチアップできる力
  • 判断力:限られた情報のなかで優先順位を決め、意思決定できる力

新規事業では、変化に柔軟に対応できる自律型の人材が不可欠であり、専門性よりも「やり抜く力」や「挑戦への耐性」が大切にされる傾向があります(参照*5)。専門知識は後から補えますが、上記のようなマインドセットは短期間では身につきにくいため、採用や選抜の段階で見極めることがポイントになります。


- 適さない人材の特徴と見極め方

新規事業と相性が悪くなりやすい思考パターンがあります。完璧主義の人は100点を目指すあまり意思決定が遅れがちで、完了基準が高すぎてアウトプットが出てこない傾向があります。保守的な思考の持ち主は新しいことや変化を望まないため、不確実な環境に適応しにくいとされています(参照*6)。

また、他責思考の人も新規事業には適しません。課題やミスが起きた際に「上司の指示通りに動いたのに」「あの部署が協力しないせいだ」と責任を外に向ける傾向があり、自ら改善サイクルを回す姿勢が生まれにくいためです(参照*6)。

見極めの場面では、過去に曖昧な状況でどう意思決定したか、失敗をどのように受け止め次に活かしたかを具体的に確認することで、上記の傾向を把握しやすくなります。スキルは後から習得できますが、根本的な志向性を変えることは困難であるため、採用・選抜時点での見極めが欠かせません(参照*7)。

新規事業チームの役割と編成の基本

- 必須となる4つの役割

新規事業チームには、事業を前に進めるために欠かせない4つの役割があります。プロジェクトマネージャーは事業全体をまとめる総責任者であり、方向性と優先順位を決定します。プロジェクトリーダーは各担当部門の最高責任者として、現場レベルの意思決定を担います。プロジェクトメンバーはさまざまなタスクを実行する実務の担い手です。そしてファシリテーターはプロジェクトマネージャーを支える補佐的な存在として、議論の整理や合意形成を促進します(参照*6)。

初期フェーズで必要な機能を別の角度から整理すると、顧客を理解している人(リサーチ機能)、事業に仕立てられる人(プロダクト・サービス開発機能)、顧客を見つけられる人(セールス・マーケティング機能)、数字を作れる人(プランニング・ストラテジー機能)の4つになります。1人が複数の役割を担うケースもあります(参照*8)。

役職名にこだわるよりも、上記の機能がチーム内で漏れなくカバーされているかを確認することが実務上のポイントです。特に初期段階では兼務が前提になるため、各メンバーがどの機能を担うかを明確にしておくと、責任の空白を防げます。


- 少数精鋭チームの最適人数と注意点

少人数でスタートしやすい新規事業では、メンバー一人ひとりが複数の役割を担い、高い成果を出すことが期待されます。既存事業のように分業が進んでいない環境では、個々の働きが事業全体の進捗に直結するため、メンバーの選定がより一層大切になります(参照*7)。

少数精鋭で臨むからこそ、スキル・資質との適合度を慎重に見極める必要があります。人数を増やせば多様な視点が得られる反面、意思決定のスピードが落ちるリスクがあります。逆に少なすぎると一人あたりの負荷が過大になり、燃え尽きを招きかねません。

現場で起きやすい落とし穴は、既存事業で成果を出しているエース人材を引き抜こうとして、既存部門の反発により頓挫するケースです。人選と同時に、既存組織との調整ルールをあらかじめ決めておくことで、チーム編成をスムーズに進められます。

人材確保の3つの手法と比較

- 社内公募・選抜制度の活用

社内の人材を活用する場合は、社内公募や選抜制度の活用が有効です。従業員自らが新規事業への参加を希望する「手挙げ式での公募」や「社内ビジネスコンテスト」は、高い意欲と潜在能力を引き出す仕組みとして組織マネジメントにも効果的です(参照*2)。

社内公募の強みは、すでに企業文化や事業理解を持つ人材を起用できる点にあります。外部から採用する場合に比べ、オンボーディングの負担が少なく、既存事業で培った社内ネットワークを活かしやすいのも利点です。

一方で、日常業務との兼務が前提になりやすく、新規事業への専念が難しいという課題もあります。公募制度を機能させるには、上長の理解と、異動後の業務引き継ぎルールの整備が欠かせません。


- 中途採用・経験者の獲得

社内に適切な人材がいない場合、外部から新規事業の立ち上げ経験者を中途採用する方法があります。役員・幹部社員の人脈や、ヘッドハンティングを得意とする人材紹介会社に依頼するケースが多いとされています(参照*1)。

ただし、単に知識や経験があるだけでは十分ではありません。外部リソースを活用する際のディレクションができることや、企業風土との合致も求められるため、採用の難易度はかなり高くなります(参照*1)。

中途採用で経験者を獲得する際には、スキルの棚卸しだけでなく、自社の事業フェーズや組織文化との相性を面接で丁寧に確認することが、入社後のミスマッチを減らすうえで有効です。


- 外部人材・副業人材の活用と成果

外部人材の業務委託は、新規事業における人材確保の有力な選択肢になっています。人材確保の手法のなかで最も成果が出ているのは「プロ人材・フリーランスなどの外部人材への業務委託」で、その割合は68.0%にのぼり、中途採用や社内異動よりも高い結果が報告されています(参照*3)。

外部人材を受け入れた企業の95.9%が「期待した成果が得られた」と回答し、99.2%が今後も活用する意向を示すなど、満足度と継続意欲は高い水準です(参照*9)。

外部の高度IT人材を活用して得られた成果としては、「採用コストを抑えられた」が62.7%で最多でした。続いて「必要なスキルを短期間で確保できた」が55.9%、「新規事業・DXプロジェクトを予定通り進められた」が47.1%、「プロジェクトの遅延を回避し計画通りに進められた」が46.1%、「社内リソースの負荷を軽減できた」が45.1%と、コスト面だけでなく事業推進のスピードにも寄与しています(参照*10)。

外部人材の活用は、必要なスキルをピンポイントかつ短期間で補えるため、新規事業の初期フェーズで特に有効です。社内の人材育成と組み合わせることで、中長期的な組織力の底上げにもつなげられます。

新規事業人材の育成と組織づくり

- 評価制度のミスマッチ解消と設計

新規事業の立ち上げフェーズでは、短期的な売上や利益が出にくいのが実情です。既存事業と同じ評価軸で人材を測ると、挑戦した人ほど低評価になりかねず、組織内の挑戦意欲を損ないます。

立ち上げフェーズでは、売上や利益といった「結果」だけではなく「学習と検証」を正当に評価する仕組みが求められます。人事評価においても結果だけではなくプロセスを評価する仕組みを取り入れることで、主体性の高い文化がつくられます(参照*2)。

具体的には、仮説検証の回数や顧客ヒアリングの件数など、プロセス指標を評価項目に組み込む方法が考えられます。評価制度を新規事業の特性に合わせて再設計することが、人材の定着とモチベーション維持に直結します。


- 失敗を許容し挑戦を促す文化の醸成

新規事業の推進には、評価制度の整備に加えて文化づくりも欠かせません。新規事業では、特定のスキルや経験よりも「不確実性を楽しめるか」「失敗から学べるか」といった志向性や価値観が成果に大きく影響します(参照*7)。

文化を根づかせるには、経営層の発信と制度への反映が鍵になります。日頃から経営陣が挑戦を促し称賛する社内コミュニケーションを取ることに加え、評価制度にプロセスの評価を組み込むことが有効です(参照*2)。

厚生労働省の「地域で活躍する中小企業の採用と定着成功事例集」として紹介されている内容では、情報通信業の企業が請負事業形態による長時間労働で人材不足に陥った後、顧客と直接契約する新規事業を立ち上げた事例があります。自分たちが受注量や仕事を選べる立場になることで働き方の調整が可能になり、利益率も向上しました(参照*11)。挑戦の文化が、働く環境の改善を通じて人材の定着にもつながることを示す例です。


- 越境学習・研修による体系的な育成

実務と学習を組み合わせた育成設計が、新規事業人材には効果的です。社内メンバーわずか2名のプロジェクトチームで障がい者向け電動ドアオープナーシステムの開発に取り組んだ事例では、メンバー2名がリーンスタートアップ的な進め方の学習速度が速く、通常3か月かかるトレーニングを1か月半で修了しました。その後、マーケティングやコミュニケーションデザインなどポイントごとに専門性の高い支援者がつき、課題を発見・解消した結果、通常3年かかるといわれた商品開発を約1年で実現しています(参照*1)。

この事例からは、少人数であっても適切な学習プログラムと外部の専門的な支援を組み合わせることで、短期間で大きな成果を出せる可能性が見えてきます。社内研修だけに閉じず、外部の知見を取り入れながら実際のプロジェクトを通じて育成する「越境学習」の仕組みが、新規事業の人材を体系的に育てるうえで有効な手段となります。

おわりに

新規事業の成功は、アイデアや資金以上に「誰がやるか」で決まります。適した人材の要件を明確にし、社内公募・中途採用・外部人材の活用を状況に応じて使い分けることで、人材不足による機会損失を防ぐことができます。

あわせて、プロセスを評価する仕組みや挑戦を促す組織文化を整えることが、人材の定着と持続的な事業創出の土台となります。自社の現状と照らし合わせながら、まずは人材面の課題を洗い出すところから取り組んでみてください。

参照

●     (*1) Sony Acceleration Platform – 新規事業が上手くいかない課題は何か?人材育成、人材不足が課題のトップに

●     (*2) 新規事業開発を行う人材の育成方法とは?求められるスキルから課題、効果的な方法まで紹介

●     (*3) and HiPro [アンド ハイプロ] – 大手企業の部長職以上500名に聞いた「専門人材確保」最新動向ーー最も成果が出ている確保手段とは|プロ人材活用をお考えの企業の方|HiPro [ハイプロ]

●     (*4) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – 人材不足・採用難が深刻な企業の9割が、成長戦略への影響を実感。受注拡大・新規事業の見送りなど機会損失が顕在化

●     (*5) SEVEN DEX POST – 新規事業立ち上げを成功させる8つのプロセス|必要なスキル・戦略・フレームワークなど徹底解説!|セブンデックス

●     (*6) 事業成長を共創する、開発パートナー|Sun* – 新規事業の立ち上げに必要なメンバーとは?適した人材の条件と見極めポイントを解説

●     (*7) Incubation Base株式会社 – 失敗しない新規事業立ち上げメンバーの選び方|必要な役割と外部パートナー活用術

●     (*8) ABeam Consulting Ltd. – 大企業で新規事業を成功させる「最初の100日」─最速で動くチーム立ち上げのポイント(第1回)

●     (*9) 株式会社アマナ – 外部人材の受け入れ企業、9割以上が「成果あり」と回答

●     (*10) HiPro Tech 法人向けサービス – 約8割が高度IT人材の採用に危機感。高度IT人材確保の最新動向を調査

●     (*11) スマートキャリア編集部 – 時短・リモート派遣ならスマートキャリア – 人材確保のために企業がすべきことは?方法や取り組み事例

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